こんにちは、防音・音響専門の建築士、紅です。
防音工事の勘違いシリーズ第3弾ですが、今回もよく間違って認識されていることについて解説していきます。吸音材に関することです。
最初に結論をまとめておきます。
- 吸音材を室内に貼り付けても防音の効果なし
- 吸音パネルは響きを整えるためのもの
- カーテンも防音の効果なし
- 二重壁の間に吸音材を入れると防音効果あり
- 吸音と防音は別々に考える
それでは詳しく解説していきます。
「吸音」と対で使われる単語は「遮音」です。音を吸うか、遮るか、の違いですが、この2つを組み合わせて「防音」します。ここでは話を分かりやすくするためにあえて「遮音」を「防音」と置き換えて使っています。
吸音材を壁や天井に貼り付けても防音の効果なし
防音室づくりの仕事をしていると「壁に吸音材を貼れば音漏れを防げる」と思っている方がとても多いことに気づかされます。
世の中には吸音板(吸音パネル)という製品があり、レンタルスタジオなどに行くと壁や天井に貼ってあり、音漏れを防げるものと思われているようです。
「音を吸う」のだから、いかにも音漏れしなそうですね・・
それらの吸音板(吸音パネル)は、実は室内の響きを整えるものであって、音漏れを防ぐためのものではないということがほとんど理解されていないようです。
吸音板がたくさん貼られた部屋では音が小さく聞こえます。音が吸われているからですね。いかにも防音に役立っていそうです。そう、確かに音は小さくなります。騒音計で測っても明らかです。
ではなぜ、吸音して音が小さくなるのに、音漏れに役に立たないのでしょう。
実はある限られた使い方においては、吸音材を壁や天井に貼ることで防音効果を得ることができます。それは、ビルやマンション、工場などの機械室(ボイラー、ポンプ、空調機など)においてです。
機械が発生する音の大きさというのは一定です。例えば運転音が80dB出ていたとして、それを吸音して室内の騒音レベルが70dBまで下がり、結果として機械室から外に出ていく音が小さくなるため、防音効果が得られたことになります。
しかし、楽器を演奏する(歌を歌う)場合はどうでしょう。
音が吸われて小さく感じる分、自然と(ほぼ無意識で)音を大きく出そうとします。つまり、自分の耳が感じる音の大きさに合わせて、出す音の大きさを調節するのです。
吸音板が張りめぐらされた部屋ではピアノのタッチが自然と強くなります
吸音して音が小さく感じる → その分音を大きく出そうとする → 結局室内の音圧レベルは変わらない
吸音板は機械室では防音効果があっても、音楽室では防音効果なし、と言い切ってしまってもよいでしょう。
さらに突っ込んで言うと、音楽室の場合は吸音することで逆効果となることがあります。
吸音材は音の高さによって吸音する効果に差があります。多くの場合、高い音ほどよく吸い、低い音はあまり吸ってくれません。しかし、演奏する側にとっては、音の高さによって音の大きさを調整することある程度はできても限界があります。
その結果、吸音されていない部屋で演奏するときよりも、低い音は音漏れも大きくなってしまいます。さらに、防音工事は低い音の方が難しく、その欠点を強調してしまうこともなります。
カーテンも防音には効果なし
ここまで読んでいただければ想像は容易かと思いますが、同じような理由でカーテンも音漏れには効果がありません。
ただし、屋外から入ってくる音については、吸音されて室内の騒音レベルが小さくなるため、掃出し窓のような大きな窓にカーテンを付けると部屋の中が静かに感じるという効果があります。もっとも繊維系のものは低音はほとんど吸わないので、トラックや電車の通行音などは変わらないでしょう。
また、「防音カーテン」という製品が存在しますが、これは遮音性の高い素材でコーティングしたり、多層構造にしたり、重量を増したりすることで通常のカーテンより遮音性を高めたものです。もちろん防音の効果はあると思いますが、楽器を演奏するような大音量には能力不足で、いわゆる「音楽室」としては成り立たず、例えば寝室を少しでも静かにしたい、などの用途に限られるものと想像します。
防音カーテンよりも二重サッシを検討した方が効果的です。
(ただし、それで足りるかどうかはまた別の話です)
二重サッシについては下記の記事をご参照ください。
吸音材を二重壁の中に入れると効果あり
さて、同じ吸音材でも防音効果を上げる使い方があります。機械室に使うこと、そして外から入ってくる騒音を小さくすることは先に書いた通りですが、もう一つ、二重壁(床、天井も同様)の中に入れることが挙げられます。
これは防音工事の常套手段で、二重壁、床、天井の中には必ずグラスウールやロックウールを入れます。
理由をきちんと説明すると専門的な話になるため割愛しますが、一言でいえば二重構造における共鳴透過現象を低減するためです。太鼓は中の空気がバネの役割をして2つの幕が共鳴することで音が大きくなる原理を利用した楽器で、それが共鳴透過現象です。
同じ意味で、二重サッシの間にカーテンを入れても防音性能を少し高めることができます。
吸音と防音(遮音)は分けて考える
音楽室の吸音板(吸音パネル)は防音のためではなく、音響(室内の響き方)を調節するためのものであることが理解していただけたのではと思います。
音楽室の天井にはロックウール化粧吸音板を貼っていることが多いですが、これは高音域の響きを抑える効果があります。耳に突き刺さる高音をやわらげる狙いがあります。
壁に貼ってある吸音パネル。これはグラスウールボードに布の巻いたもので、中~高音域の吸音効果があります。壁のコーナーに斜めに取り付けて、後ろにたっぷりとした空気層を設けるともう少し低音まで吸音してくれます。
そしてカーテン。これは建材としての吸音素材ではないのですが、意外に吸音力が高くて重宝します。繊維系の素材は高音を吸い、カーテンのうしろの窓との空気層が中音域も吸ってくれます。さらに、カーテンは開けると窓ガラスという反射素材が表れるため、開ければ響きは多め、閉めれば少なめというように、残響をコントロールすることができます。あえて窓の部分だけでなく、壁面いっぱいにカーテンがかけられうように計画することもあります。
実は吸音は奥が深くてほかにも色々と書きたいことがあるのですが、それはまた別の機会として、このページで述べたかったのは吸音と防音は別々に分けて考えることです。少なくとも音楽室にとって、室内に貼る吸音板やカーテンは防音のためのものではないことを理解していただければ幸いです。