ピアノ室に必要な防音性能はどれくらい? 具体的な数値で解説

ピアノの防音室 防音性能 目標値の決め方

こんにちは、防音・音響専門の建築士、紅です。今回から、楽器ごとに必要な防音性能について解説していこうと思います。まずは防音室の依頼で最も多いピアノから。

最初に結論をまとめておきます。

  • マンションのピアノ室は、上下左右の住戸に対しD-65以上
  • 一戸建てのピアノ室は、屋外に対しD-50以上
  • 自宅内のほかの部屋に対してはケースバイケース
  • グランドピアノとアップライトピアノでは必要な防音性能は同じ

それでは詳しく解説していきます。

目次

防音性能の具体的な数値目標を決めることが重要

防音対策を行うとき、壁を分厚くしたり、窓を二重サッシにしたり、防音ドアを付けたりと色々と方法を考えると思います。

しかし、いきあたりばったりでやったのでは、どれくらいの効果が出るのか、実際に対策したあとにピアノを弾いてみないと分かりません。

しかも、これが一戸建てならば自分の耳で確認できますが、マンションでは上下やお隣の家に入らせてもらうわけにもいかず、防音対策がうまくいっているのか自分で確認することができません。

そこで重要なのは、下記のような段階に基づいて計画、実施することです。

STEP
目標値を決める

どこに対してどれくらいの防音性能が必要か、具体的な数値で目標を設定します。

STEP
防音の仕様を考える

目標値をクリアするためにはどのような工事を行えばよいか、仕様を計画します。

STEP
防音工事の実施

計画に基づいて工事を行います。

STEP
性能チェック

工事後にどれくらい聞こえなくなっているか確認します。

※専門業者の場合は日本建築学会やJISに定める方法に基づいて測定検査を行います。

STEP
改善策を練る

性能チェックで問題があれば、その原因を調べて、改善策を考えます。

あれ、なんか聞いたことある感じがするぞ、と思った方、そう、PDCAですね。

でもこれができてないケースが実に多いんです・・

防音工事の知識のない設計者や工務店が、壁を二重貼りにすれば大丈夫だろう、とか、防音ドアを付ければ、など方法は思いついても、ではそれをやることでどれくらい効果が見込めるのか分からないまま工事に着手しているのが実情です。

つまり、具体的な目標設定がないまま進めてしまっているのです。P=計画がおろそかなまま、D=実行してしまっているパターンですね。

これはどんなことでもそうですが、P=計画が一番重要です。Pがダメならその先どんなに頑張ってもうまく行きません

たまたまうまく行って結果オーライということもあるかもしれませんが、防音工事の場合、後から追加工事で挽回できることは限られていて、多くの場合、全部壊して最初から作り直しになってしまいます。

では、具体的にピアノの場合、防音の目標値をどのように決めればよいか、解説していきます。

ピアノの音の大きさを把握する

敵を知れば百戦危うからず。まずはピアノが発生する音の大きさ=音圧を知っておきましょう。

ピアノは小さなお子さんの習いごと程度でも簡単に90dB程度出ます。大人がフォルテシモで思いきり弾けば瞬間的に100dB超えることもありますが、一般的には95dBと覚えておけばよいです。

ピアノの音圧=95dB

なお、より分析的にはこれに音の高さ=周波数の要素が加わり、防音の専門業者は必ず周波数特性を見ます。

防音を目的とする場合は、下記グラフのような6つの周波数帯域で見ます。125Hzから倍音=1オクターブずつ上がる帯域で、オクターブバンドレベルと言います。

ピアノの周波数特性
グランドピアノの音圧
響板から1m地点で測定

マンションで必要な防音性能

考え方として、音を聞こえなくしたいのが同じ建物内の別の部屋なのか、建物の外なのか、で分けて扱います。
つまり、マンションなのか、一戸建てかで別々に考えます。

マンションの場合、通常、一番配慮したいのは、お隣さんや上下に住んでいる方に対してですね。特にピアノ室に接している部屋が寝室だったりするとなおさらです。

寝室など特に静かな部屋の場合、ピアノの音は30dB以下になるようにしたいです。

95dBの音を30dBにする。つまり、95 – 30 = 65dB音を減らすことが目標となります。

さらに、瞬間的に100dB出ることもあるので、理想としては、100 – 30 = 70dB減らすことができればより安心です。

マンションでピアノを弾く場合
上下左右の住戸に対して
目標値=D-65(できればD-70)

遮音度グラフ

防音の尺度は日本建築学会が定めるD値(JISではDr値)で、D-65は端的に言って65dB音を減らすという意味ですが、正確には周波数帯域ごとに減音する値が異なります。

遮音度(D値)曲線
125Hzの低音から4kHzの高音まで、オクターブ毎に6つの音域について、何デシベル音を小さくするのかを表しており、D値が大きくなるほど防音性能が高くなります。

一戸建てで必要な防音性能

一戸建ての場合でも、配慮したいのはご近所であることはマンションと変わりません。

しかし、マンションは壁のすぐ向こう側がお隣さんですが、一戸建ての場合はいったん屋外に出て、敷地の向こうにお隣さんの家が建っています。

そこで、ピアノ室の窓や壁の外でどれくらい音が小さくなればよいかで判断します。

当たり前ですが、屋外は個人の居住スペースではないので、ある程度音が小さくなればよく、ピアノの音が完全に聞こえなくなる必要はありません。

また、屋外は閑静な住宅街でもいくらか環境騒音があり、小さな音は埋もれてしまいます。

目安としては、ピアノの音が、窓や外壁面から1m離れた場所で45dBくらいになっていれば十分静かです。

95dBの音を45dBにする。つまり、95 – 45 = 50dB音を減らすことが目標となります。

一戸建てでピアノを弾く場合
窓・外壁面から1m地点において
目標値=D-50

自宅内のほかの部屋に聞こえないようにするには

多くの場合、防音の目的は他人に迷惑をかけないため、つまりご近所さんに対する配慮がメインですが、同居の家族に対する配慮が必要な場合もあります。

考え方はマンションと同じで、同じ建物の上下左右の部屋に対してどれくらい防音するかということになります。

マンションの場合は他人が住んでいるので、ほとんど聞こえないようにするためD-65以上が必要ですが、家族の場合はそこまでの防音性能が求められることは少ないです。

また、マンションのように隣の部屋との界壁がコンクリートであることが稀で、防音工事をしても物理的にD-65を実現することが困難でもあります。

例えば、木造住宅の一戸建てで、隣の部屋に対する防音性能は、ピアノ室仕様の防音工事を行った場合でD-50~55程度です。(ドアからの回り込みがあればD-45くらい)

これくらいで十分なケースがほとんどですが、例えば、二世帯住宅などの場合は、可能であればピアノ室を別世帯の寝室と離れた部屋にするなど、間取りの工夫で解決します。

部屋が限られていてそれができない場合は、対象となる壁面の防音構造を強化するなど、防音工事での対策が必要となります。

グランドピアノとアップライトピアノの防音対策の違い

グランドピアノとアップライトピアノ

よく、「グランドピアノだから防音室にしないとね」というような声を耳にします。

これには二つの意味があって、一つはピアノの腕前が上がって演奏が本格的になり、グランドピアノに買い替えるタイミングが、練習時間の増加や、大きな音の出る曲を弾くようになることによるもの。

もう一つは、グランドピアノの方が、アップライトピアノより大きな音が出ると思われていることです。しかしこれは間違いで、実は発生する音圧はそれほど変わりません

以前、アップライトはOKで、グランドは禁止というマンションがありました・・

アップライトの場合、ピアノの背面は響板がむき出しになっていて、ここから出る音が最大です。響板と背面の壁が近く、壁に入射する音圧が大きいです。

グランドピアノもピアノの下面は響板がむき出しですが、床との距離がある分、アップライトよりは音漏れのリスクが小さいと言えるかもしれません。

防音工事をしていない部屋にアップライトピアノを置く場合は、なるべく自宅内の他の部屋側の壁の前に置き、マンションではお隣さん側の壁、一戸建てでは屋外に面する壁の前には置かない方がよいです。


今回はピアノのための防音室で、防音性能の目標値について解説しました。

ではこの目標値を実現するためにどんな工事が必要なのでしょうか。原則としては、絶縁二重構造、二重サッシ、防音ドア、給排気の消音対策です。今後、別記事として詳しく書いていこうと思います。

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