ラフマニノフ前奏曲Op.23-4、32-10練習記

ラフマニノフ前奏曲OP23-4、32-10

こんにちは、へっぽこピアノ弾きの紅です。

ふだんはロクに練習していませんが、ステージで弾く非日常感を味わいたく、2年に1回くらいのペースでそのような機会をつくってピアノに触れています。

今年は2つのピアノ教室の発表会が近いので、両方に同じ曲目でエントリーすることにしました。
1つは子どもたちが通っている教室ので
もう1つは以前、防音室をつくったお客様が教えている教室のです。

今回はラフマニノフを選びました。
子どもたちが通っている教室の先生がアシュケナージの実妹エレーナ(日本の音大で教鞭を取っていた)に師事し、ロシアにも留学経験があるためです。前回参加したときもロシアものからメトネルのソナタ=エレジーOp.11-2を演奏させていただきました。

目次

パガニーニ第18変奏が弾きたい

コンチェルト『パガニーニの主題による狂詩曲Op.43』の最も有名な部分、第18変奏をソロに編曲したものが弾きたく色々探し、これが良さそうだと決めたのですが・・

残念ながら、ほかの方とかぶってしまい別の曲にすることにしました。

もうひとりの方はコンクールでこの曲を弾くため(たぶんソロ版ではなくコンチェルト全曲)、リハーサル的な位置づけで今回の発表会で弾きたいとのこと。

一方、趣味でやっている僕には時期の制約はなく、次回以降の楽しみとして取っておけばよいのです。

あとで分かったのですが、このコンクールはコロナ禍で中止に・・

前奏曲を2曲選びました

もともとパガニーニ第18変奏だけでは短いので、もう1曲弾くつもりでした。

当初は僕が好きな前奏曲Op.23-4ヴォカリーズを弾こうと思っていたのですが、どちらもパガニーニ第18変奏と似たような甘い感じで、両方を続けて弾いたらくどいかなーと思っていたところ、先生からこれなんかどうと言われたのが

前奏曲Op.32-10

でした。正直ノーマークというか、自分だったらたぶん選んでないのですが、甘さとは正反対の重くてい曲で、バランスがとれ丁度良さそうです。

下記はワイセンベルクの録音。中間部の迫りくるような連打がいい感じ。

もう一曲は前奏曲つながりにしました。

前奏曲Op.23-4

実はこの曲、18年ほど前にも人前で弾いたことがあります。そのときはシマノフスキの前奏曲Op.1-7を一緒に弾いたのでした。

僕が好きな演奏はリヒテルのもので録音はいくつか残っていますが、その中でも1959年ワルシャワで収録されたものです。
メロディを浮かび上がらせるのが難しい曲ですが、のびのびと歌い上げています。

曲の難易度

さてこの2曲、聴いた感じでは23-4の方が易しく、32-10は難しそうに聴こえると思います。
ヘンレの難易度付けによると下記のようになっていて、確かに32-10の方が難しいようです。

  • Op.23-4 ”A”ランク (9段階の上から4番目)
  • Op.32-10 ”S”ランク (9段階の上から3番目)

しかし、実際に弾いてみるとわかるのですが、23-4は聴いた感じよりも難しく、
逆に32-10は意外と弾けてしまうのです。つまり、

演奏効果:Op.32-10 > Op.23-4

23-4は実際難しいのに聴いている人にはそのように思われない=
32-10は逆に実際より難しく聴こえる=お得、ということになります。

まあ、損得勘定で選曲しているのではないのですが・・

ではそれぞれの曲の中身を見ていきます。

前奏曲Op.23-4

穏やかにしてレガート、ゆったりとしたアルペジオの波の中を息のなが~い美しいメロディがおおらかに流れてゆきます。少しずつ形を変えながら、クライマックスに向かってゆっくりと盛り上がっていきますが、頂点に激しさはなく、温かさに満たされる感じです。

全体に穏やかで速いパッセージもなく、聴いてる分には難しいように思われないでしょう。
でもなかなかに曲者で、演奏は困難です。

  • メロディを歌わせるのが難しい
  • ポリリズムが難しい
  • 手の交差が難しい

メロディを歌わせるのが難しい

この曲の難しさはこれに尽きます。他の要素もすべてここにつながります。
メロディが単音でフレーズがとても長いのでスカスカなんですが、
一方、それ以外の音が多く、かつ下へ上へと縦横無尽に行ったり来たりします。

かなり大胆に音量差を付けないと(感覚的にはfとppくらい)、うまくメロディが浮かび上がってきません。

また、音数の多い副旋律、伴奏の方に気を取られていると、メロディを歌うことが置き去りになってしまいます。聴いている人は主にメロディを追いかけているのに、弾く方が副旋律でいっぱいいっぱいになってしまってはうまく伝わりません。

特に難しいと感じるのは下記の部分です。

23-4メロディ

多くの曲はメロディが高音部にくるため、右手の薬指や小指でメロディを浮き上がらせて奏でることには慣れています。

ところが、上の譜面のの部分、親指や人差し指でメロディを奏でながら、薬指や小指で副旋律を弾くといういつもと逆なので、強弱の付け方が難しいんです。どうしても薬指や小指に力が入ってしまう・・

ポリリズムが難しい

ショパンの幻想即興曲ドビュッシーのアラベスク第一番と同じように、左右で別のリズムが同時進行します。

先ほどと同じ個所、下の譜面は右手が3連符、左手が8分音符のポリリズムで、メロディがその間に挟まれるように入っています。

23-4ポリリズム1

そして左右逆もあります

23-4ポリリズム2

しかも最初から最後までずっとポリリズム・・

でも慣れてくると左右の手が分離して勝手に動くようになるから不思議です。

手の交差が難しい

左右の手をクロスして弾く曲はそれほど珍しくないですが、この曲は特に弾きにくい部分が2か所あります。

まず1つ目、前半部分にあります。
これは楽譜よりも動画を見た方が分かりやすいです。

山崎裕さんは仕事上のお客様で、撮影されたこちらの部屋は僕の設計です

右手でメロディを奏でつつ、左手のアルペジオがメロディの音域をまたいで行ったり来たりします。

右手は旋律をつなげたいのでポジションキープです。右手を低くしてその上を左手がまたぐこともあれば、逆に鍵盤を押さえたまま右手を山高く上げてその下を左手がくぐるのと両方あります。

今回、色んな方の演奏をYouTubeで見たところ、右手と左手のどちらを上にするかはマチマチでした。

珍しい例としては下の動画の方で、可能な限り手の交差を避けて左右の手に音を振り分けています。

確認できる範囲では、なんと交差がたった1回しかないです。
手が重ならないのは良いですが、メロディを橋渡しするのが難しそうです。

手の交差でもう1か所、難しいところが後半にあります。
下の譜面の箇所ですが、

23-4 手の交差 元の楽譜

ここは僕は下記のように指を置き換えて弾いています。

23-4 手の交差 改良後

作曲家の意図、音楽の流れに反するやり方でしょうけど、これでだいぶ弾きやすくなりました。

この曲の一番好きなところ

後半の再現部、主旋律の後を一歩下がって追いかけるような高音の副旋律が好きです。

その一番最後の盛り上がるところに高いAの音があって、ほとんどコレが弾きたいがためにこの曲を選んだと言っても過言ではありません。前出のリヒテルの録音ではこの一音がこの世のものは思えないほど綺麗で、昇天してしまいそうです。

23-4再現部

本番でこの音を綺麗に出せなかったら悔いが残りますね・・

前奏曲Op.32-10

この曲を初めて聴いたとき、以前弾いたショパンの夜想曲第13番(Op.48-1)に似てるなと思いました。
夜想曲、前奏曲というジャンルにしてはいずれもスケールの大きな曲です。
全体に暗く重々しいのと、静→動→静の構成、中間部の和音の連打などが共通点でしょうか。

ショパンの方は、出だしが重い葬列が粛々と進んでいくような感じなのに対し、
ラフマニノフの方は荒涼とした原野にポツンと一人立ち尽くしているような寂寥感が漂います。

また、ショパンの方がメロディアスなのに対し、
ラフマニノフの方は幾分旋律が希薄で、そういう意味では現代的と言えるかもしれません。

灰色の世界

なんとも寂しげで時間が止まってしまったような虚無感漂う曲想で始まります。

32-10冒頭

技術的には難しいところはなく、動きが少なく地味なので演奏会向きではないですね・・

ちなみに、「ターララン」というリズムは前奏曲集Op.32の中に多く出てくる共通のモチーフらしいです。

激動の中間部

一転して激しい曲想になりますが、躍動的というのではなく壮絶で悲愴的であり、吹雪の中を風に逆らって進んでいくような感じです。

個人的にはロ短調というとこういうイメージがあります。
バッハの有名なミサ曲リストのソナタがあるからですね。

32-10中間部

激しい和音の連打の中に重く分厚い旋律が現れます。

ここは難しいそうに聴こえますが実はそれほどでもありません。

ただ、やみくもに強打してしまうと旋律が埋もれてしまうので、ffでありながら同音連打は少し抑え気味にして、あくまでも旋律を目立たせる必要があります。左手のバスをズドーンと強烈な一撃で響かせるとカッコイイです。

この激しい連打のあと、炎が消えていくように見えて、最後にくずぶっていた火種が再度燃え上がり、火の粉が舞うかのようです。

32-10中間部後半

こういう速いパッセージは僕はあまり得意ではないのですが、音の組み合わせがそれほど複雑ではないため、ちゃんと練習すれば弾けるようになるのではと思います。

再び灰色の世界、そして死

再現部はふたたび寂寥感漂う灰色の世界に。

中間部にあれだけ激しくもがき続けたあとには希望もなく、最後には力尽きて息絶える・・・

32-10ラスト

ラストの左手のオクターブ2音は死を表しているのでしょう。

なんだか救いようのない曲のように書きましたが、前奏曲集としてはまだ続きがあって、このあとに希望や復活を表現したような曲Op.32-13で締めくくられます。


本番まで2カ月を切りました。

夜はお酒を飲んでしまうので、練習になりません。

勤め人ではなくなったので朝でも比較的時間を取ることができます。朝練に励むことにしよう。

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