ヴァイオリン、チェロなど弦楽器の音楽室に必要な防音性能は?

弦楽器の防音室

こんにちは、ふだんはピアノを弾いてますが、弦楽器の音色も大好きな一級建築士、紅です。有名なフランクのヴァイオリン・ソナタはいつかヴァイオリニストと合わせてみたい曲です。ピアノパートがなかなかハードですが・・・

前回の記事ではピアノ室にはどれくらいの防音性能が必要か解説しました。今回は弦楽器(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)について書いてみます。

ピアノより音小さいから防音はラクでしょ、と思われがち。
でも意外と一筋縄ではいかないんですよ・・

最初にポイントをまとめておきます。

  • ヴァイオリンとヴィオラは窓の防音が重要
  • チェロとコントラバスは部屋全体をしっかり防音し、さらに床に配慮する
  • 基本的にはピアノ室と同様に考える(マンションはD-65、一戸建てはD-50)
  • 防音以外にも弦楽器特有のポイントあり

それでは詳しく解説していきます。

目次

防音の目標を数値で明確にすることが重要

ものごとはなんでもそうですが、まずはきちんと目標を立てて、それから実行することがとても大切です。

防音室について言えば、どこに対しどれくらい防音する必要があるのか、具体的な数値で目標を立てることです。

ここをすっ飛ばしてしまうと、部屋ができあがったあとに、あれ?こんなはずではという結果を招きかねません。しかも、防音室はあとからちょっと追加工事して改善というわけにはいかない場合が多く、壊して最初から作り直す羽目に、という事態もままあります。

このあたりは、前回のピアノの記事で書いていますので、詳しくは下記をご覧ください。

楽器の音の大きさを把握する

まずは弦楽器の音の大きさ(音圧)を把握するところからはじめます。

現代の弦楽器は主に4種類=ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスあって、それぞれ混声四部合唱で言うところのソプラノ、アルト、テノール、バスみたいな感じで音域を分担しています。

このうち、ヴァイオリンとチェロについて、音圧と音域の関係をグラフ化したものが下記です。

ヴァイオリンとチェロの周波数特性

ヴァイオリンは1kHzあたりに音圧のピークがあり、チェロではそれが250Hzですね。

低い音から高い音まですべての周波数成分を積分したものをオールパス値と言いますが、上のグラフのような音の高さを考慮せず、ざっくり何デシベル、と音の大きさだけを表しているのはオールパス値です。

大雑把に言って、弦楽器の音圧はオールパスで85dBと考えてよいと思います。しかし、このオールパスというのが結構クセモノなんですね。その理由は後ほど。

弦楽器の平均的な音圧=85dB

どれくらい音を小さくする必要があるかを考える

楽器の音がどれくらい小さくなっていれば良いか、それが分かれば具体的な防音性能の目標が立てられますね。

前回のピアノの記事で、マンションでは上下左右の住戸で30dBくらいに、一戸建てでは窓や外壁から1m離れた場所で45dBくらいになっていれば、十分に静かと言えると書きました。

同じことを弦楽器でもやってみましょう。

  • マンション 85dB – 30dB = 55dB ・・・ D-55
  • 一戸建て  85dB – 45db = 40dB ・・・ D-40

ピアノの音圧が95dBでしたから、それに比べると防音のハードルは低いように思えますね。しかし、実は注意すべき点があります。それは、楽器の音域についてです。

さきほど、オールパスがクセモノと書きました。それは防音工事は音の大きさだけではなく、同時に音の高さも同時に考えながら対策する必要があるからなんです。

遮音度グラフ

防音の尺度は日本建築学会が定めるD値(JISではDr値)で、D-65は端的に言って65dB音を減らすという意味ですが、正確には音の高さ(周波数帯域)ごとに音を小さくする値が異なります。

遮音度(D値)曲線
125Hzの低音から4kHzの高音まで、オクターブ毎に6つの音域について、何デシベル音を小さくするのかを表しており、D値が大きくなるほど防音性能が高くなります。

ヴァイオリン、ヴィオラは窓の防音が重要

ヴァイオリニスト

一般的に、床・壁・天井は高い音よりも低い音の方が通りやすいです。

しかし、窓ガラスのような薄くて均一な材質のものについては、高い音の防音性能が低いという特徴があります。物理学の専門用語でコインシデンス効果と言います。

もう一点、小さな隙間も高い音の方が通りやすいです。窓やドアには扉と枠の間にわずかに隙間があるため、その点でも床・壁・天井に比べ高い音が通りやすいです。

詳しくは窓について書いた下記ブログ記事を読んでいただければと思います。

マンションでは、窓のすぐ目の前にお隣さんの家が建っていることは少ないので、高音の音漏れをシビアに考える必要はありませんが、一戸建ての場合は窓をきちんと防音することが重要になってきます。

そこで、高音楽器であるヴァイオリン、ヴィオラについては、窓の前でD-50を目安にするのが良いと思います。

マンションの上下左右の住戸に対しては、鉄筋コンクリートの床や壁は高い音を通しにくいので、チェロやコントラバス、ピアノに比べて防音は容易と言えます。

チェロ、コントラバスは部屋全体をしっかり防音し、さらに床に配慮する

チェリスト

防音工事の特徴として、高い音に比べ低い音の方が防音は難しいというのがあります。これは、物体は低い音の方が通しやすいという音の物理的な特性が原因です。

低い音の音漏れを防ぐためには、床、壁、天井をぐるっと絶縁した二重構造を作ることで対策します。二重構造の間の空気層をたっぷり取ることも重要なポイントです。

チェロ、コントラバスの低音楽器については、マンションでは上下左右の住戸に対してD-65一戸建てでは窓・外壁から1mの地点でD-50としたいところです。

さらに、チェロとコントラバスにはエンドピンがあり、楽器が床に接地しています。絶縁二重構造で床は防振材で支えられているとはいえ、いくらかは固体伝播音もあります。

マンションの2階以上では、床の防音対策について特に配慮が必要と言えます。

結論:弦楽器はピアノ室と同じ防音性能が必要

ここまで読んでいただければ、マンションでD-65、一戸建てでD-50という、ピアノの防音室と同じ防音性能が必要であることがお分かりいただけたかと思います。

マンションで弦楽器を弾く場合
上下左右の住戸に対して
目標値=D-65

一戸建てで弦楽器を弾く場合
窓・外壁面から1m地点において
目標値=D-50

マンションでヴァイオリンとヴィオラの音楽室のみ、上下左右でD-55程度でも通用しますが、弦楽器の場合は単独で演奏することよりも、アンサンブルでほかの楽器と一緒に弾く機会が多いと思います。

伴奏用にアップライトピアノを置くケースもありますが、そうするとピアノの方が音が大きく、その意味でもピアノと同等の防音性能が必要です。

ちなみに、アップライトとグランドでは音圧にほとんど差がありません。詳しくはこちらをご参照ください。

防音以外の点で配慮すべきこと

防音室をつくるにあたり、弦楽器特有の配慮すべきことがあります。

天井の高さ

ヴァイオリン、ヴィオラは立って演奏し、かつ弓の先端が頭より上に来ます。

成人男性のヴァイオリニストが、天井を気にせず思いきり弓を振り回すには、2.6mの天井高が必要というのを聞いたことがあります。

また、コントラバスは人間の背丈よりも高さのある楽器です。演奏しているときよりも、特に持ち運ぶときに天井の高さに気を使います。

日本家屋の平均的な天井高さは2.4mで、さらに二重床・二重天井で天井が低くなるため、なかなか2.6mの天井高を確保するのは困難ではありますが、極端に低くならないよう、設計を工夫する必要があります。

響き

これはクラシック音楽には総じて言えることなのですが、ある程度の残響があり、空間の響きに包まれる感覚があった方がよいです。

中でも、弦楽器、木管楽器、声楽は長めの残響が良いと言われることが多いです。(好みなど個人差はあります)

また、弦楽四重奏などのアンサンブルでは、お互いの音を聴きながら演奏することから、ある程度の明瞭度も必要で、単に響けばよいということでもありません。

響きの設計は数値化しやすい防音よりも難しく、奏者とよく話し合うこと、そして部屋ができあがった後も調整していくことが重要です。


今回は弦楽器のための防音室で、防音性能の目標値について解説しました。

目標値は分かったけど、では具体的にどんな工事をすればよいのでしょうか。原則としては、絶縁二重構造、二重サッシ、防音ドア、給排気の消音対策です。今後改めて記事にしたいと思います。

ヴァイオリンの防音室
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