金管楽器、サックスの防音は難易度高め。でも条件次第で調整できます

金管楽器・サックスの防音室

こんにちは、防音音響設計が専門の建築士、紅です。

小学生の頃、ブラスバンドでバリトンホルン(パートはユーフォニアム)という超マイナーな楽器を吹いていました。マーチングの強豪校で、全国大会の会場が日本武道館でした。ロックスターでもないのに武道館なんて凄すぎると子どもながらに興奮した記憶があります。

さて、前々回=ピアノ前回=弦楽器に続いて、今回は金管楽器とサックスの音楽室にはどれくらいの防音性能が必要か書いていきます。

サックスは木管楽器に分類されますが、防音という観点では金管楽器と一緒に考えた方がよいので、ここでは同じくくりにしています。

トランペットはオケでもひときわ目立つ楽器。
いかにも防音の難易度高そうですが、実はそうでもなかったりします

最初にポイントをまとめておきます。

  • 金管楽器、サックスはピアノや弦楽器よりも音圧レベルが高い
  • トランペットなど中高音楽器よりも、トロンボーンなど低音楽器の方が防音は難しい
  • 金管楽器、サックスは高い防音性能が必要だが、条件次第で調整可能
目次

まずは防音性能の数値目標を立てましょう

まずは目標を数値化すること。これができてないのに防音工事に取り掛かってはいけません。手探りでやるのは痛い目を見るのでやめましょう。

前回、前々回でも書いていますが、コレ本当に大事です。

理由はピアノの記事で詳しく書いていますので、下記をご覧ください。

楽器の音の大きさを把握する

楽器の音の大きさ(音圧)を把握します。

金管楽器は種類が多いですが、主要なところでは下記ですね。

  • トランペット
  • ホルン
  • トロンボーン
  • ユーフォニアム
  • チューバ

サックス(サクソフォン)は和声学の声域が名前についていて分かりやすいです。

  • ソプラノサックス
  • アルトサックス
  • テナーサックス
  • バリトンサックス

楽器の音圧と音域の関係をグラフ化したものが下記です。

金管楽器の音圧グラフ
サックスの音圧グラフ

トランペット、アルトサックスは1kHzあたりに音圧のピークがあり、ホルン、トロンボーン、ユーフォニアム、テナーサックスは500Hz、チューバでは250Hzですね。

低い音から高い音まですべての周波数成分で積分したものをオールパス値と言いますが、楽器の音域によらず、音圧のみを表すときはオールパス値です。

ちょっと乱暴かもしれませんが、金管楽器とサックスをひとくくりにして、音圧を一言で表すとすれば、オールパスで105dBと考えてよいと思います。

金管楽器、サックスの平均的な音圧=105dB

どれくらい音を小さくする必要があるか計算してみる

楽器の音圧が分かったので、あとはどれくらい音を小さくすることができれば、ご近所さんを気兼ねなく演奏できるかを考えてみます。

マンションでは上下左右の住戸で30dBくらいに、一戸建てでは窓や外壁から1m離れた場所で45dBくらいになっていれば、ご近所さんにほぼ気兼ねすることなく演奏できることは、ピアノや弦楽器の記事のところでも書いた通りです。

とりあえず、金管楽器・サックス全般のオールパス値で計算してみます。

  • マンション 105dB – 30dB = 75dB ・・・ D-75
  • 一戸建て  105dB – 45db = 60dB ・・・ D-60

結構、高い防音性能が必要ですね。一戸建てでD-60はともかく、マンションでD-75の防音性能を実現するのはかなりハードルが高いです。

もちろん、この性能をクリアできれば申し分ないですが、建物形式ごと、楽器ごとにもう少し分析的に掘り下げてみたいと思います。

遮音度グラフ

防音の尺度は日本建築学会が定めるD値(JISではDr値)で、D-65は端的に言って65dB音を減らすという意味ですが、正確には音の高さ(周波数帯域)ごとに音を小さくする値が異なります。

遮音度(D値)曲線
125Hzの低音から4kHzの高音まで、オクターブ毎に6つの音域について、何デシベル音を小さくするのかを表しており、D値が大きくなるほど防音性能が高くなります。

マンションでのトランペット、アルトサックスなど中高音楽器は防音対策が比較的容易

トランペット

これは弦楽器のところでも述べたように、床・壁・天井などは低い音の方が通りやすく、高い音は通りにくいという特徴があります。

そのため、トランペット、ホルン、ソプラノサックス、アルトサックスなどの中高音楽器については、特に鉄筋コンクリート造のマンションでは(絶縁二重構造にすることは必要ですが)防音工事の難易度はそれほど高くありません。

目安としては、ピアノ室と同じで、上下左右の住戸に対しD-65をクリアできれば十分です。

一戸建てでのトランペット、アルトサックスなど中高音楽器は窓の防音対策が重要

一方で、一戸建ての場合はマンションと異なり、屋外に対する防音対策を行う必要があります。

特に、窓ガラスは高音域で防音性能が落ちるという物理的特性(コインシデンス効果)があるため、要注意です。

また、開閉できる窓にはいくらか隙間があり、この隙間も高音が通りやすいです。

詳しくは窓の特徴について書いた下記ブログ記事をご覧ください。

二重サッシの防音性能は、縦すべり出し窓と内開き窓の組み合わせでD-50程度です。

D-50でも目の前が開けた道路などであれば、トランペットでも問題ないことが多いですが、窓のすぐ前にお隣さんの家が建っていて、かつ窓が付いているような場合には要注意です。

そこで、それより1ランク高い防音性能D-55を確保するのを目安とします。

マンションでのトロンボーン、テナーサックスなど低音楽器は高い防音性能が必要

トロンボーン・チューバ

さて、低音楽器(トロンボーン、ユーフォニアム、チューバ、テナーサックス、バリトンサックス)についてはどうでしょう。

床・壁・天井は低音が通りやすいうえに、金管楽器・サックスは音圧レベルが高いです。そのため、マンションのピアノや弦楽器での目安D-65では物足りないです。

一方で、マンションの防音工事でD-65より高い性能を実現するのは難しいです。

絶縁二重構造にして、躯体との空気層を大きくすることでより低い音まで防音性能を上げることはできますが、空気層を大きくすればするほど、部屋が狭く、天井が低くなってしまうので、もともと広くて天井の高い部屋ならよいのですが、マンションでそのような好条件の部屋はなかなかありません。

やや妥協する形にはなってしまいますが、ピアノや弦楽器の目安であるD-65より1ランク高いD-70を目標値とするのが現実的ではないかと思います。

一戸建てでのトロンボーン、テナーサックスなど低音楽器も高い防音性能が必要

最後に一戸建てで低音楽器の場合についてです。

マンション同様、金管楽器・サックスはピアノや弦楽器よりも高い防音性能が必要であることは間違いありませんが、マンションに比べれば実現しやすいと言えます。

絶縁二重構造にすることは必須として、そのうち外壁に面する壁の空気層を大きくすることで、屋外に対する防音性能をUPさせることができます。住宅密集地ならばD-60以上欲しいところです。

窓については開かない窓(FIX窓)を採用するか、お隣さんがとても近いなど立地条件が厳しい場合は、窓なしにすることも検討した方がよいかもしれません。(建築基準法の要件を確認する必要があります)

目の前が広い道路であったり、ある程度の交通騒音がある立地の場合は、縦すべり出し窓と内開き窓の二重窓にして、D-50で十分なこともあります。

結論:ピアノ室より高い防音性能が必要だが、条件次第で調整可能

金管楽器・サックスはピアノや弦楽器よりも大きな音が出るので、より高い防音性能が必要です。

しかし、マンションなのか一戸建てなのか、楽器の種類(音域)、周辺環境など、条件次第ではピアノと同程度の防音性能で良い場合があります。

ただし、そのさじ加減はなかなか難しいので、やはり防音の専門家に一度相談してみることをおすすめします。

表にまとめておきます。

低音楽器
tp, hr, eup, s.sax, a.sax
中高音楽器
tb, tub, t.sax, b.sax
マンションD-70(できればD-75)D-65
一戸建てD-60(好条件ならD-50~55)D-55(好条件ならD-50)
サックス
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