ドラム室、バンドスタジオには最高レベルの防音性能を。具体的な数値で解説

ドラム室・バンドスタジオ

こんにちは、防音・音響専門の建築士、紅です。これまで、ピアノ弦楽器金管楽器/サックスと3回にわたりそれぞれの防音室に必要な防音性能について解説してきました。このシリーズの締めくくりとして、ドラムやエレキギター、エレキベースなどバンドスタジオの防音室について書いていきます。

あれ、木管楽器は?声楽は?と思われた方、すみません。似たような記事ばかりになってしまうため、あえてページを設けませんが、基本的には弦楽器(ただしプロの声楽家は金管楽器)を目安に考えていただければ概ねOKです。音域による対策の違いについても同様です。

最初にポイントをまとめておきます。

  • ドラム、バンドスタジオは原則としてマンションでは防音工事しても不可
  • 木造一戸建てでもドラム室、バンドスタジオは条件次第で施工可能
  • 自宅内のほかの部屋に対する防音性能は割り切りが必要
  • エレキギター、エレキベース単体でも基本的にはドラムと同様に考える
  • テナントビルでは建物の構造や他テナントの業態をよく確認する
目次

楽器の音量(音圧レベル)を把握する

まず最初にやることはここからです。前3回でも書きましたが、ここが本当に大事です。大事なので何度でも書きます。

STEP
音の大きさを知る
STEP
どれくらい音を小さくするか決める
STEP
工事の実施

ピアノ室の記事で詳しく解説しています。下記をご覧ください。

下のグラフはドラムとグランドピアノの音圧を示したものです。ドラムは音楽ジャンルや奏者によって幅があるものの、120dB近い音圧が出ます。ピアノは概ね95dBですから、それより25dBも大きいですね。

ドラムとグランドピアノの音圧グラフ

ドラム、バンド演奏の平均的な音圧=120dB
バンド演奏において、エレキギターやエレキベース、ヴォーカルは、ドラムに合わせて音量調整するため、ドラムの音圧を基準に考えるとよいです。

マンションでは防音工事を行ってもドラム、バンドスタジオは原則不可

マンションでは上下左右の住戸内で聞こえる音を30dB以下にしないと、苦情を受けてしまう可能性が高いです。

  • マンション 120dB – 30dB = 90dB ・・・ D-90

D-90をマンションの隣接住戸で実現するのはほぼ不可能です。1ランク下のD-85は過去に計測できた実例がありますが、狙って出した記録ではなく、保証値D-70に設定したピアノのための防音室で、たまたま何らかの好条件が重なって得られた結果で、予測したものではありません。

絶縁二重構造の空気層をたっぷり取り、かつ防音構造の質量を思いきり大きくすればD-90が出るかもしれません。しかし、それでは部屋は非常に狭く、天井は低くなり、また積載荷重の問題(建築基準法で住宅の床設計用積載荷重は180kg/m2)から材料の質量を大きくするにも限界があります。まったくもって現実的ではありません。

例外として、防音室付きの専用マンションで、ドラムが演奏可能なレベルに建物自体が設計されている場合があります。防音室の上下左右も防音室で、D-80、85程度で設計されているようです。ただし、居住者がみんな演奏者であり、多少聞こえてもお互いさま、という前提で成り立っています。一般の分譲マンションとは居住者の条件がそもそも異なります。

遮音度グラフ

防音の尺度は日本建築学会が定めるD値(JISではDr値)で、D-65は端的に言って65dB音を減らすという意味ですが、正確には音の高さ(周波数帯域)ごとに音を小さくする値が異なります。

遮音度(D値)曲線
125Hzの低音から4kHzの高音まで、オクターブ毎に6つの音域について、何デシベル音を小さくするのかを表しており、D値が大きくなるほど防音性能が高くなります。

一戸建て住宅ならば木造でも条件次第でドラム室、バンドスタジオは施工可能

ドラム

ほかの楽器の防音室の記事でも書いたように、一戸建ての場合は窓や外壁の外、1m離れた地点で45dBくらいの音圧になっていれば、ご近所さんに気兼ねなく演奏ができます。

  • 一戸建て 120dB – 45dB = 75dB ・・・ D-75

D-75の防音性能を木造住宅で実現するのは非常に難易度が高いですが、鉄筋コンクリート造で窓なしにすればハードルはそれほど高くありません。

また、木造住宅であってもしっかりした防音工事を行うことでD-65、D-70をクリアできるので、都心の住宅密集地のようなお隣さんの家が至近距離で迫っているような状況でなければ実現可能です。

実際にD-65程度のドラム室でも、深夜は控えるなどの制限は付くものの、多くの場合は問題なく演奏できるようです。

また、条件の良くない立地でも、例えば道路に面した側の部屋にするなど、間取りを考えることで対処できる場合もあります。

自宅内のほかの部屋に対する防音は同居人の理解が必要

木造の一戸建て住宅でもドラム、バンドスタジオが実現可能ではありますが、それはあくまでもご近所さんに対する配慮という点においてです。

自宅の中にはかなりの音量で聞こえるため、同居する家族の理解が必要です。

新築の場合は、なるべく防音室をほかの家族の寝室から離れた位置にするなど間取りの工夫で対処しましょう。

また、出入口の防音ドアをD-40程度のスチール製のものを採用し、かつ二重ドア、あるいは前室を計画するとよいです。

エレキギター、エレキベース単体でも基本的にはドラムと同様に考える

エレキギター・エレキベース

電子楽器はアンプのボリュームで調節することができます。その意味では、極言すれば防音工事なしでも、マンションでも演奏できないことはないです。

しかし、実際にバンド演奏するときの音量で弾かないと気分が乗らないでしょうし、小さな音ばかりで練習していたらフラストレーションが溜まってしまうことでしょう・・。

僕はピアノですが、弱音ペダルでの練習はやる気が起きません・・

理想としてはドラム室と同じくらいの防音性能が欲しいところです。特にエレキベースは、ドラムのバスドラよりも音圧が高いです。

エレキギターで、周辺環境などの立地条件が整えば、屋外に対しD-60くらいでも良い場合があります。

テナントビル内に設けるリハーサル/レコーディングスタジオ、ライブハウスなどの場合

バンドスタジオ

時間貸しのスタジオがビルの中に入っていることはよく見かけると思います。

ビルの構造は、鉄骨造や鉄筋コンクリート造がありますが、まず、構造体の質量の点から、鉄筋コンクリート造であることが前提になります。

また、どんな業態のテナントがビルに入っているかも確認が必要です。

飲食店や、常時BGMが流れているような物販店舗が入っているならば、しっかりした防音工事を行えば大丈夫なことが多いです。逆に、クリニック、学習塾など静けさが要求されるテナントがすでに入っている場合は避けるべきです。

スタジオの経営者がビルのオーナーだったり、ビルまるごとスタジオになっていることも最近では見かけます。そもそも他テナントに配慮する必要がない、あるいは少ないケースですね。


これで、楽器ごとによる防音性能の記事はおしまいです。

実際には、奏者や音楽ジャンルによっても音量がまちまちですし、建物の種類や構造、立地など諸条件で必要な防音性能は変わってきますが、目安として参考にできる程度には書いてきたつもりです。みなさんの音楽生活に少しでもお役に立つことができれば幸いです。

また、楽器ではない音=オーディオ、シアターなど観賞用の部屋や、DAWスタジオなど音楽制作のための部屋については、実は防音性能よりもほかに検討すべき要素がたくさんあり、そのあたりはまた改めて記事にしたいと考えています。

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